Koshiji Yoko

越路姉妹の越路よう子が日々思うことを綴ります。

ペロデューサー

 このところ、気づいたらプロデューサー的な

ことをしていることに気づいた。

プロデューサー的、と言うのは結果的にそん

な役割になっていたと言う意味だ。

 

私は徳島の山奥に月の半分暮らし、農村舞台

という浄瑠璃の舞台を活性化させるために色

々な取り組みをさせていただいてきた。

舞台は演じる人がいなければ息づかない。

息を吹き込むにはそこで演じてくれる人をお

招きしなければならない。

お招きするからには色々な装飾や演出に知恵

を絞らなければならない。

素晴らしいパフォーマンスと素敵な舞台演出

ができたらそれを記録しなければ広がらない。

そんなことを繰り返していたら、結果的に責

任者の私がプロデューサーになっていたとい

うことがここ数年繰り返されてきた。

おかげさまで色々なことを学ぶことができ

た。色々大変だったけど(汗)

 

農村舞台では、山下洋輔さん、柳家喬太郎

さん、オマール・ソーサさん、土方隆行

ん、渡嘉敷祐一さん、Gocooさん、tomoca

さん、大多和正樹さん、そして我らが越路

姉妹など多くの方々にご出演いただいた。

舞台装飾には華道家の平間磨理夫さん、そ

してフライヤーデザインには蘭子など多く

の才能に支えられた上でのイベントだった。

 

その後、阿波の遊行という阿波の古謡を収

録したアルバムを出す。

サウンドミックスとアートディレクション

については久保田麻琴さんに全面的にお願

いしたのだが、企画制作、責任者という意

味では私もプロデューサー的な役割を担う

ことになった。

 

そして、上々颱風の白崎映美さん率いる白

ばらボーイズの「群衆」という音源に至って

も私はプロデューサー的な役割を担うことに

なる。

プロデューサーっつうより言い出しっぺとい

う感じなので、私は自分のことをペロデュー

サーと呼んでいる。言い出しっぺの「ぺ」

ペロデューサー。

 

そんなペロデューサーの私は次に徳島でこ

のようなことをペロデュースする。

 

俳優の三上博史さんの公演だ。

 

三上さんとの出会いは、この徳島公演でピ

アノや笛、ピアニカなどを演奏してくれる

エミ・エレオノーラさんのライブ会場でお

会いしたことがきっかけだった。

エミさんと三上さんはもう数十年のおつき

あいで、三上さん主演のあの伝説のミュー

ジカル「ヘドウィグアンドアングリーイン

チ」日本版でも共演されている。

 

三上さんは、15歳の時寺山修司さんの元

で「草迷宮」という映画でデビューしている。

寺山修司といえば日本の演劇界のみならず、

その当時の若者のカウンターカルチャー

のもので、今ではアンディウォーホール

ニールヤングなどと同じように世界的に高

い評価を受けている。そんな巨匠の元、1

5歳の三上少年はデビューする。

三上さんの一般的なイメージはテレビドラ

マの中にあるのかもしれないが、そもそも

彼はテレビ界の芸能人とは一線を画すたた

き上げの演劇人だったのだ。

 

その当時、三上さんは寺山さんから映像班

として指名され、一切の舞台には立たせて

もらえず主にテレビと映画の世界で芝居を

することを命じられたのだという。

80年代のカウンターカルチャーのど真ん

中で叩き上げられた三上少年は、やがて青

年になりあっという間に日本芸能界のスタ

ーダムにのし上がる。そしてその時代のテ

レビドラマや映画界を瞬く間に席巻する。

スワローテイルや戦場のクリスマス、NHK

大河ドラマなど、他にも多くの名画、ドラ

マに出演されている。トレンディドラマと

いうジャンルの中ではその当時出ていない

ドラマの方が少なかったのではないかと思

うほどその存在感と名前は日本中に響き渡

っていた。

 

ただ、演劇の真髄を軸とした彼の考え方と

その当時のテレビ業界とのギャップは時と

して彼を苦しめる。あまりにも彼の美意識

と哲学にかけ離れたものが目の前に現れた

時、誰にも吐露することのできない苦悩が

彼自身を襲うことになる。

何度も台本を壁に叩きつけた日々が続いた

らしい。

 

栄光の光と影とはまさにこうしたことを言

うのだろう。

 

そんな三上さんは今だに一つ一つの作品に

向き合うこだわりを強く強く持っている。

 

三上さんに直接お会いして話していると、

常に冗談を交えながら気さくに明るく接

してくれるのだが、やはり作品に対する

こだわりや向き合う姿勢はとてつもなく

強い美意識を感じる。

 

そんな三上博史さんの俳優としての眼差

しには、底抜けの純度と本質的な物事の

考え方と叩き上げの役者魂のようなもの

を常に感じる。

 

ただ、私は芝居の世界はさっぱりわから

ないので三上さんとはいつも音楽の話し

や歴史の話し、そして宇宙の話しなどを

している。

その時間が私はとても楽しい。

 

ちょっと前に私が取り組んでいる徳島の

農村舞台の話しや、私が惹かれる徳島に

まつわるお話をするとすぐに徳島まで来

てくれた。

その時、いつか徳島で何かできたらいい

なと言う話しをしていたことが実現でき

たのが今回の徳島公演なのだ。

 

今まで多くの方々に徳島にお越しいただ

いた。そのどれもこれもが素晴らしいパ

フォーマンスで楽しい時間だった。

ただ、公演前にお仕事とは別に徳島に関

心を抱いていただきその上直接来てくれ

たのはこの三上博史さんと浪曲師の玉川

奈々福さんだけだ。

 

なんと嬉しいことか。

 

今回の徳島公演については内容が郷土の

民話(かなり不思議な話が多くて面白い)

を中心に瀬戸内寂聴さんの随筆などで構

成され、合間に朗読の内容にリンクする

楽曲をたっぷり歌っていただく。

 

三上さんは、その民話の土台となった場

所をこの公演前に訪れたいと申し出てく

れた。

したがって私はこの公演前に数日間かけ

てご徳島のあちらこちらをご案内するこ

とになった。これまた嬉しいリクエス

だった。

 

こうして時間をかけて作り上げてゆく舞

台は楽しい。

三上さんのこうした姿勢を現場に伝えると、

いつも阿南の会場装飾をしてくれている仲

間(森のたくちゃん)はさらに素晴らしい

イデアを投げかけてくれ、そしてそのイ

メージを見事に表現してくれる。どんどん

どんどんグルーヴしてゆくのが実感として

わかる。

 

わたしはこうしたやり方が好きだ。

こうしたやり方で作り上げてゆきたい。

そしてこうしたやり方でお客さんにお伝

えしたい。

 

効率や数字の世界を超えた感覚でしかリ

ーチできない世界が、これからの時代を

生きてゆく大きなテーマとなっている。

 

わたしにとっては。

 

10月26日、阿南コスモホールでの

1日は素晴らしい1日になるだろう。

今からとても楽しみだ。

 

 つづく

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三上博史・徳島公演